『ティファニーで朝食を』は私の大好きな小説で、日本語版、英語版どちらも、3回以上は読んでいます。
読み終わった時は満足するんですけど、何年か経つと、また読みたくなって。
日本語版に飽きたら英語版を読んでみたり。英語版が難しくて、また日本語版に戻ってみたり。
この記事には、そんな私の『ティファニーで朝食を』愛を詰め込みました。
『ティファニーで朝食へ』をこれから読む人への、そしてきっとまた読むであろう未来の自分への、読書ガイドです。
この記事を書いた人
今年で外資系歴10年目、日本生まれ日本育ちの日本人です。TOEICは対策なしで915(2019年)。独学でここまできた経験を、日本人英語学習者のために共有しています(詳細プロフィールはこちら▶︎)。
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洋書『Breakfast at Tiffany's』の、英語の難易度
私の主観では、洋書『Breakfast at Tiffany's』の難易度は「上の中」です。
TOEIC 840点(2007年)、外資系9年目、推定語彙力7,000~22,000、趣味読書で洋書も苦労なく読む私にとっても、『ティファニーで朝食を』は難しく、辞書なしでは読めませんでした。
それに加え、ネイティブ独特の表現や、当時のニューヨークに関する知識がないと理解できない部分もあり、単純に辞書があればいい、という問題でもないところが、『ティファニーで朝食を』の難しいところです。
ですので、通常なら洋書にはアマゾンキンドル(ワンタッチ辞書が便利)がおすすめなのですが、『Breakfast at Tiffany’s』に限っては、↑の講談社英語文庫がおすすめです。
巻末の注釈が、辞書だけでは歯が立たない時、とても参考になるためです。
合わせて、村上春樹訳の日本語版もあると、英文解釈の手助けになります。
よっぽで英語力のある方でないと、洋書『Breakfast at Tiffany’s』を、スラスラ読むことは不可能だと思います。
でも、
それでも、
『Breakfast at Tiffany's』は、本当に素敵な小説だから、ぜひ読んでもらいたい。
というわけで、この先は、私からあなたへの、『ティファニーで朝食へ』のプレゼンです。
概要、テーマ、タイトルの意味、読みどころ、登場人物、あらすじ、スクリプトと和訳の順で続きます。
これらを参考に、ぜひ洋書『Breakfast at Tiffany’s』を読んでみてください。
『ティファニーで朝食へ』はここがおすすめ
- 長くないので、気軽に読める。
- 王道を行く設定がわかりやすい(自由奔放なヒロインに振り回される主人公 / 友達以上、恋人未満)。
- おしゃれな気分になれて、読んでて気分がいい。
『ティファニーで朝食を』の概要
『ティファニーで朝食を』とは?

若き日のトルーマン・カポーティ。主人公の僕は、こんな感じ?
- 原題:Breakfast at Tiffany’s
- 作者:トルーマン・カポーティ
- 発表:1958年
- 時代:第二次世界大戦が始まって間もない頃
- 場所:ニューヨーク(アッパーイースト70丁目あたりが中心)
- 長さ:中編小説(日本語文庫本で約160ページ)
- 内容:作家志望の青年(僕)と女優の卵(ヒロイン、ホリー)を中心とした物語。
- 評価:20世紀アメリカ文学を代表する名作。
- 映画:オードリー・ヘプバーン主演による映画も有名(ただし原作と違うところあり)。
『ティファニーで朝食を』のテーマ
『ティファニーで朝食を』にテーマがあるとしたら、私は「Innocence(純真、純潔)」だと思います。
でも、この「Innocence」は、法的、性的なものではありません。
ヒロインのホリーが持つ、「Wild(野生的な)」で、「Eccentric(奇抜な)」な要素も、含んだ上での、「Innocence」。
つまり、「自分の心に正直に、ホーム(安らげる場所)を探し続けること」、そこに対しての「Innocence」というわけです。
ホリーの「Innocence」は「社交界の光と、ホームのない闇」という対比によって、よりいっそう強調されたものとなります。
カポーティのこの戦略は、上手いなと思います。
寓話のような美しさ
主人公の「僕」がホリー・ゴライトリーの有していたイノセンスの翼を信じ続けるように、信じ続けようと心を決めたように、僕らもまたこの『ティファニーで朝食を』に描かれた美しくはかない世界を信じ続けることになる。寓話と言ってしまえばそれまでだ。しかし真に優れた寓話は、それにしかできないやり方で、我々が生きていくために必要とする力と温かみと希望を与えてくれる。
訳者あとがき、村上春樹
ホリーの「Innocence」は美しくて、でもどこか「Fragile(もろい)」。
時間が前にしか進まないように、「Innocence」も年齢を重ねるにつれて失われてしまうもの。
ホリーは「Innocence」をつらぬくことができるのか?
安らげる場所を見つけることができるのか?
気をぬくと壊れてしまう、「Fragile」な「Innocence」。
「Fragile」だからこそ美しい。
そんな「Innocence」が眩しくて、20世紀ニューヨークでの物語のはずが、まるで寓話のようにも感じられる。
『ティファニーで朝食を』を名作たらしめている要因の1つには、そんなところがあるんじゃないかと、私は思います。
『ティファニーで朝食を』のタイトルの意味
ティファニーで朝食を、今さらタイトルの意味がわかった
ティファニーは安らげる場所の比喩
朝食はそこを見つけたことの比喩(安らかに寝れる→起きた後そこで朝食が食べれる
ヒロインのホリーは安らげる場所を探し続けてる、っていう物語を動かす力が、このタイトルに凝縮されてる
良いタイトル pic.twitter.com/0S4PUkhuJT
— Im_Very_OK! (@Im_Very_OK) 2019年3月13日
補足
ヒロインのホリーは、別にティファニーの宝石が好きなわけではありません。
なぜホリーにとって、ティファニーが安らげる場所なのか、それは後述のスクリプトのセククションで紹介します。
『ティファニーで朝食を』の読みどころ
ホリーのイノセンス
テーマとの繰り返しになりますが、やっぱり読みどころは、ホリーのイノセンスです。
美しいけど、いつかは失われる、その刹那さゆえ、いっそう美しいイノセンス。
まるで寓話です。
文学史上もっともかっこいいヒロイン?
ワイルドでエキセントリックなんだけど、フラジャイル。
清楚なイノセンスではないけれど、透明感がある。
ホリー・ゴライトリーが魅力的すぎて、私は、物語の筋自体には、あまり意味がないのかな、とさえ思っています。
ストーリーよりも、ホリーの言葉や行動がおもしろい。
あらすじに余計な意識を使うより、全意識をホリーに集中させて、ホリーの全てを楽しむ。
主人公の僕のように、自由奔放なホリーに振り回される。
私が思う、『ティファニーで朝食を』の、おすすめの読み方です。
『ティファニーで朝食を』のホリーは、私の読書経験の中において、文学史上もっともかっこいいヒロインです。
メモ:その他の候補
『マノン・レスコー』のマノン、『椿姫』のマルグリット、『カルメン』のカルメン。この3人とホリーが私の中のヒロイン四天王。
(私的文学史上最低の悪女は、『グレート・ギャツビー』のデイジー)
ホリー役にもっともふさわしいのは誰?

マリリン・モンロー
小説『ティファニーで朝食を』を書いたトルーマン・カポーティは、映画版のホリー役にはマリリン・モンローが最適と考えていたと言われています(Will The Real Holly Golightly Please Stand Up: Truman Capote Mines His Friendships For Art)。
しかし、『ティファニーで朝食を』の映画版で、ホリー役を演じたのはオードリー・ヘプバーンでした。
すでに多くの人が指摘しているように、小説からイメージするホリーは、オードリー・ヘプバーンのような女性ではないと、私も思います。
ところが、私の頭には、オードリー・ヘプバーンの顔と、歌声と、Moon Riverの曲が、強烈なイメージとして残っている。
本当は違うはずなのに、この存在感は、いったい何なのでしょうか。
『ティファニーで朝食を』好きとして、悔しいけれど、映画、女優、音楽の力を、認めざるを得ません。
『ティファニーで朝食を』を読みながら、ホリーが実在したら、どんな女性なんだろう?
ホリー役を演じる女優として、誰が適役だろう?
と想像しながら読むと、おもしろく読めると思います。
『ティファニーで朝食を』の登場人物
僕:物語の語り手/書き手
- 僕は作家志望の青年(おそらく下積み時代を雑誌The New Yorkerで働いていたカポーティ自身が投影されている)。
- ニューヨークのアッパーイースト70丁目あたりで、ブラウンストーンのアパートの2階で1人暮らしをしている。
- 映画では筋肉質、メガネなしだったが、原作からは痩せ型メガネだと思われる。
ホリデー・ゴライトリー:物語のヒロイン(愛称ホリー)
- 物語のヒロインで、愛称はホリー。僕と同じアパートメントの1階に住んでいる。
- ニューヨーク社交界で男性セレブに人気がある女優の卵。
- ホリーが持つ、ホーム(安らげる場所)を探し求める気持ちが、物語を動かして行く。
- 映画ではオードリー・ヘプバーンが演じたが、原作からはもっとセックスアピールのあるマリリン・モンロー的なキャラだと思われる。
- ホリーを「娼婦」として紹介するブログ等も散見されるが、小説中にそう断言する記述は一言もない(そのことで寓話性が守られていると思います)。
ジョー・ベル:いきつけのバーのマスター
- レキシントンアヴェニューの角でバーを経営している。
- 僕とホリーはよくこのバーに行っていた(目的はお酒ではなく、電話を借りること)。
猫
- ホリーが飼っている猫だが、お互いに独立していて、お互いに誰のものでもない。
- ホリーとはある日、川べりで出会った。
- ホリーと同じく、ホームを探している。
ユニヨシ
- ブラウンストーンのアパートメントの最上階に住んでいる、日本人カメラマン。
- 物語は、ユニヨシがアフリカで撮ってきた写真をきっかけに動き出す。
差別的な表現
映画では日本人を差別するようなキャラクターとして演じられていて、日本人としては見ていて気分が悪くなります。
映画を見るときは、事前に心の準備をしておくのがよいかもしれません。
私たちとしては、外国の人にそういうことをしないようにしよう、と、映画での表現を反面教師にできればいいなと思います。
他にも登場人物はいますが、ひとまずは、重要度の高い、上記4人と1匹にとどめます。
『ティファニーで朝食を』のあらすじ
繰り返しになりますが、私は『ティファニーで朝食を』を楽しむうえで、物語の筋はどうでもいいと思っています。
それよりも、私が好きで、最も楽しかったのは、ホリーの言動でした。
物語を動かす一次的な要素は、ホリーの(ホームを求める)気持ちであって、それにもとづいてホリーの言動が決定していく。
物語の筋がどう進んで行くか、他の登場人物が何をしたかは、ホリーが動いた後の、二次的な結果でしかない。
『ティファニーで朝食を』は、とにかく、ホリー。私はそう思っています。
一応、未来の私のために、あらすじも以下に折り畳んでおきます。
あらすじは、必要な方だけご覧いただければと思います。
『ティファニーで朝食を』のスクリプトと和訳
『ティファニーで朝食を』の中で、私が好きなポイントをピックアップし、原文スクリプトならびに私の和訳と補足を添えました。
ポイントごとに整理したので、時系列ではない点はご了承ください。
ちなみに、カポーティの英文について、新潮文庫版の翻訳を担当した村上春樹さんは、訳者あとがきで次のように書いています。
僕は高校時代にこの人の文章を初めて英語で読んで(『無頭の鷹』という短編小説だったが)、「こんな上手な文章はどう転んでも書けないよ」と深いため息をついたことを記憶している。僕が二十九歳になるまで小説を書こうとしなかったのは、そういう強烈な体験を何度もしたせいである。そのおかげで、自分には文章を書く才能なんてないのだと思い込んでいた。
なお、和訳はあえて直訳調にしています。洋書を読む時は、英語を英語のまま理解しないとスラスラ読めません。そのため、そんな読み方のサポートになるような和訳を心がけました。
自然な日本語にすることは翻訳者の仕事であって、私たち読者の仕事ではないからです。
冒頭の書き出し
I am always drawn back to places where I have lived, the houses and their neighborhoods. For instance, there is a brownstone in the East Seventies where, during the early years of the war, I had my first New York apartment.
かつて住んでいた場所、家、近所のことを、私はよく思い出す。例えば、東の70丁目あたりのブラウンストーン、それは戦争の初期、私にとって始めてのニューヨークでのアパートメントだった。
my spirits heightened whenever I felt in my pocket the key to this apartment; with all its gloom, it still was a place of my own, the first, and my books were there, and jars of pencils to sharpen, everything I needed, so I felt, to become the writer I wanted to be.
私の気持ちは高ぶった、ポケットの中にアパートへの鍵を感じた時はいつも;全くさえない部屋だったけど、そこは私にとって始めての自分だけの場所だったし、そこには私の本と、これから削られる何本もの鉛筆が鉛筆立ての中にあった。必要なものは全て揃っていた、少なくとも私にはそう感じられた、作家になりたい人間にとって必要なものは。

It never occurred to me in those days to write about Holly Golightly, and probably it would not now except for a conversation I had with Joe Bell that set the whole memory of her in motion again.
当時は全く考えなかった、ホリー・ゴライトリーについて何かを書こうなんて。そしておそらく、今でもそうだった、ジョー・ベルと会話をしなければ、その会話をきっかけに、彼女との思い出が生き生きとよみがえってきた。
「ミス・ホリデー・ゴライトリー、旅行中」の名刺
I’d been living in the house about a week when I noticed that the mailbox belonging to Apt. 2 had a name-slot fitted with a curious card. Printed, rather Cartier-formal, it read: Miss Holiday Golightly; and, underneath, in the corner, Traveling. It nagged me like a tune: Miss Holiday Golightly, Traveling.
その家(アパート)に住んで約一週間たった頃、2号室の郵便受けの名札入れに、気になるカードが差し込んであった。印刷されていた、予想以上にしゃれた字体で:ミス・ホリデー・ゴライトリー;その下の隅には「旅行中(Traveling)」と書いてあった。それはまるで歌のように私の耳に残った:ミス・ホリデー・ゴライトリー、トラヴェリング

“After all, how do I know where I’ll be living tomorrow? So I told them to put Traveling.”
「結局のところ、明日私がどこに住んでいるかなんてわからないでしょ?だから彼ら(ティファニー)に(住所のかわりに)旅行中って印刷させたのよ。」

聖クリストフォロスのメダル
“I’m afraid it isn’t much,” and it wasn’t: a St. Christopher’s medal. But at least it came from Tiffany’s.
「それは大したものじゃない。」実際そうだった:ただの聖クリストフォロスのメダルだ。でも、少なくともそれはティファニーで買ったものだ。

▼次は、物語の最終盤、ホリーが僕に、逃走用の荷造りをお願いするシーンです。
“Another favor -poke around my apartment till you find that medal you gave me. The St. Christopher. I’ll need it for the trip.”
I managed a fast, first-rate job of assembling her going-away belongings. I even found the St. Christopher’s medal.
「もう1つお願い。私の部屋を引っかきまわして、あなたがくれたあのメダルを見つけてほしいの。聖クリストロフォロス。この旅にはそれが必要だから。」
僕はホリーの逃走用荷物をまとめるという、高速かつ一流の仕事をやってのけた。聖クリストフォロスのメダルも見つけた。

ホリー・ゴライトリーの描写
読者を魅了してやまないヒロインのホリーとはどんな女性なのか?
その人となりがわかる部分を以下に抜粋しました。
ホリー・ゴライトリーの外見
the ragbag colors of her boy’s hair, tawny streaks, strands of albino-blond and yellow, caught the hall light. It was a warm evening, nearly summer, and she wore a slim cool black dress, black sandals, a pearl choker. For all her chic thinness, she had an almost breakfast-cereal air of health, a soap and lemon cleanness, a rough pink darkening in the cheeks. Her mouth was large, her nose upturned. A pair of dark glasses blotted out there eyes. It was a face beyond childhood, yet this side of belonging to a woman. I thought her anywhere between sixteen and thirty; as it turned out, she was shy two months of her nineteenth birthday.
様々な寄せ集めの色をした男の子のような髪には、黄褐色の筋や、白子のようなブロンドと黄色の房があり、廊下の光を受けていた。暖かな夜で、ほとんど夏のようだった、彼女はスリムでクールな黒いドレスに、黒いサンダル、真珠のチョーカーを身につけていた。彼女の上品な細さには、朝食のシリアルのように健康的な雰囲気、石鹸やレモンのような清潔感があり、両ほほはラフなピンクで色濃くなっていた。口は大きく、鼻は上向き。暗いサングラスで覆い隠されていた。子供時代はすぎていたが、まだ女性にはなりきっていない顔だった。16歳から30歳の間だと思ったが、あとでわかった、彼女はあと二ヶ月で19歳の誕生日を迎えるところだった。
メモ
- 主語はthe ragbag colors of her boy’s hair
- 直後の tawny streaks と strands of albino-blond and yellow は直前の主語を説明するための挿入
- For all her chic thinness,の文法的な位置付け、後続文との繋がりが、わからないです。。。
ホリー・ゴライトリーは偽物?
“What do you think: is she or ain’t she?”
“Ain’t she what?”
“A phony.”
“I wouldn’t have thought so.”
“You’re wrong. She is a phony. But on the other hand you’re right. She isn’t a phony because she’s a real phony. She believes all this crap she believes. You can’t take her out of it.
「あなたはどう思う?彼女はそうなのか、そうじゃないのか?」
「そうって、何が?」
「偽物かどうかってこと」
「そう思ったことはないないけど」
「あなたは間違っている。彼女は偽物だ。でもその一方で、あなたは正しい。彼女は偽物じゃない、なぜなら彼女は本物の偽物だからだ。彼女は自分の信じている全てのゴミクズを信じている。彼女をそこから引き出すことはできない。
メモ
phonyは「偽物、まがい物、いんちき、ペテン師、まやかし」という意味。

desirable or not, it is a natural thing that we should change. All right, here were two people who never would. That is what Mildred Grossman had in common with Holly Golightly. They would never change because they’d been given their character too soon; which, like sudden riches, leads to a lack of proportion: the one had splurged herself into a top-heavy realist, the other a lopsided romantic. I imagined them in a restaurant of the future, Mildred still studying the menu for its nutritional values, Holly still gluttonous for everything on it.
望にせよ望まないにせよ、私たちが変化していくのは自然なことだ。ところがここに決して変化しようとしない二人がいる。省略 1人は惜しみなく頭でっかちの現実主義者になり、もう1人は一方的に偏った空想家になる。私は彼らがレストランにいるところを想像する。ミルドレッドは栄養価の観点からメニューを見て、ホリーはメニュー上の全てを貪欲に見ている。

“We must’ve had a hunnerd dollars’ worth of magazines come into that house. Ask me, that’s what done it. Looking at show-off pictures. Reading dreams. That’s what started her walking down the road. Every day she’d walk a little further: a mile, and come home. Two miles, and come home. One day she just kept on.”
ドク「100ドル分の雑誌を取り寄せたに違いない。でも、それがこれの原因だった。派手な写真をみて、夢見たいな話を読んで。その結果、彼女は出歩くようになった。毎日、彼女は少しずつ遠くまで歩いた。1マイル歩いて、帰ってくる。2マイル歩いて、帰ってくる。ある日彼女は、帰ってこなくなった。」

The instant she saw the letter she squinted her eyes and bent her lips in a tough tiny smile that advanced her age immeasurably. "Darling," she instructed me, "would you reach in the drawer there and give me my purse. A girl does't read this sort of thing without her lipstick.
その手紙を目にしたとき、彼女は目を細め、唇をぎゅっと曲げ、小さな厳しい微笑みを作った。「ダーリン」と彼女は僕に言いつけた。「そこの抽斗から化粧バッグを取ってくれない。女たるもの、口紅もつけずにその手の手紙を読むわけにはいかないもの」

鳥かご:ホリーが耐えられないもの
I walked down Third Avenue to Fifty-first Street, where there was an antique store with an object in its window I admired: a palace of a bird cage, a mosque of minarets and bamboo rooms yearning to be filled with talkative parrots. But the price was three hundred and fifty dollars.
サード・アヴェニューを五十一丁目通りに向けて歩いて行ったところに、一軒の骨董屋があり、そのウィンドウに惚れ惚れする物があった。宮殿のような鳥かごだった。尖塔のついたモスクと、竹でできた複数の部屋がおしゃべりなオウムたちがやってくるのを渇望していた。しかし値段は350ドルもした。
▼1943年3月10日の月曜日のこと:僕の作品が、無償だけど、出版されることになり、僕とホリーはお祝いでデートをします。その時、鳥かごに対するホリーの考えがわかる発言があります。
We ate lunch at the cafeteria in the park. Afterwards, avoiding the zoo (Holly said she couldn’t bear to see anything in a cage)
It was near the antique shop with the palace of a bird cage in its window, so I took her there to see it, and she enjoyed the point, its fantasy: “But still, it’s a cage.”
私たちは公園のカフェテリアでランチを食べた。その後、動物園は避けて(ホリーは言った、檻の中に生き物が閉じ込められているのは、見るに耐えられない。)
そこはあの宮殿の鳥かごをウィンドウに飾ってある骨董屋の近くだった。僕は彼女をそこへ連れて行った。彼女は鳥かごのポイントや空想的な雰囲気を楽しんだけど、こう言った「でも結局、これは檻よ」
▼次のクリスマスプレゼントのシーンと合わせ、ホリーは檻の中に閉じ込められるのが耐えられない性格であることが読み取れます。
and Holly said: “Look in the bedroom. There’s a present for you.”
“Promise me, though. Promise you’ll never put a living thing in it.”
ホリーは言った「ベッドルームをみて。あなたへのプレゼント(鳥かごのこと)があるの」
「でも約束して。この中に生き物を絶対に入れないって」
ホリー・ゴライトリーの好きな歌
On days when the sun was strong, she would wash her hair, and together with the cat, a red tiger-striped tom, sit out on the fire escape thumbing a guitar while her hair dried. Whenever I heard the music, I would go stand quietly by my window. She played very well, and sometimes sang too. Sang in the hoarse, breaking tones of a boy’s adolescent voice.
陽射しの強い日には、彼女は髪を洗い、赤い虎縞模様の猫と一緒に非常階段に座り、ギターを爪弾きながら、髪を乾かした。その音楽が聞こえた時はいつも、僕は窓際にそっと立ち、その音楽を聴いた。彼女はとても上手にギターを引き、ときどき歌いもした。しゃがれた、割れるような声だった、声変わりする少年の声のように。

Don’t wanna sleep, Don’t wanna die, Just wanna go a-travelin’ through the pastures of the sky; and this one seemed to gratify her the most, for often she continued it long after her hair had dried, after the sun had gone and there were lighted windows in the dusk.
「眠りたくない。死にたくない。空の牧場をずっと旅していたい」。これが彼女の最もお気に入りの歌のようだった。というのも、彼女はよくこの歌を長く歌い続けていたからだ。髪が乾いた後も、太陽が沈み夕暮れの中で窓に明かりが灯る頃になっても。
ホリー・ゴライトリーのセリフ
“I don’t. I’ll never get used to anything. Anybody that does, they might as well be dead.”
「私は違う。私はどんなものにも慣れたりはしない。慣れるくらいなら、死んだ方がまし」
“It should take you about four seconds to walk from here to the door. I’ll give you two.”
「ここからドアまで歩くのに約4秒かかる。あなたには2秒あげる(2秒で出て行け)」
“Well, so, tough titty. Anyway, home is where you feel at home. I’m still looking.”
「そう、それはとても残念。でも、ホームとはお家でくつろげるような場所のこと(※1)。私はそんな場所を今も探し続けている(※2)。」
※1:私の解釈▶︎必ずしも生まれた国や場所とは限らない。
※2:ティファニーみたいな場所のこと。
“Never love a wild thing, Mr. Bell,” Holly advised him. “That was Doc’s mistake. He was always lugging home wild things. A hawk with a hurt wing. One time it was a full-grown bobcat with a broken leg. But you can’t give your heart to a wild thing: the more you do, the stronger they get. Until they’re strong enough to run into the woods. Or fly into a tree. Then a taller tree. Then the sky. That’s how you’ll end up, Mr. Bell. If you let yourself love a wild thing. You’ll end up looking at the sky.”省略 “it’s better to look at the sky than live there. Such an empty place; so vague. Just a country where the thunder goes and things disappear.
「野生のものを好きになっちゃダメよ、ベルさん」、とホリーは彼にアドバイスした。「それがドクの失敗だった。彼はいつも野生の生き物をうちに連れて帰ってきた。翼に傷を負った鷹。あるときは、足を骨折した大きな山猫。でも、野生の生き物に愛情を注いじゃダメ。愛情を注げば注ぐほど、彼らは強くなる(回復する)。回復したら、森の中に逃げ帰っていく。または、木の上にのぼる。そして、もっと高いところまでのぼる。そして、空に飛んで行ってしまう。これが行き着く結果なのよ、ベルさん。もし野生の生き物を愛したら。あなたは空を見上げて生きることになる。」省略「空を見上げている方がずっといいのよ、空で暮らすよりも。空はからっぽで、漠然としている。そこはただ、雷が鳴り、ものが消えていく国でしかない。」
ラザフォード(ラスティー)・トローラーの描写
『ティファニーで朝食を』には、ナイフのように切れ味鋭い、痛烈な描写があります。
例えば、以下に紹介する、ラザフォード(ラスティー)・トローラーの描写です。
もしラスティーが実在の人物をモデルにしていたとしたら、彼のプライドはズタズタなはず。
ラスティーの件が事実かどうか、はっきりした根拠は見つけられませんでしたが、自分の作品中で、実在の人物をメタクソに侮辱することは、カポーティがよくやる手口だったそうです。
ソース:Will The Real Holly Golightly Please Stand Up: Truman Capote Mines His Friendships For Art
以下の英文の難易度はかなり高いと思います。私は辞書や注釈なしでは正確に理解できませんでした。
『ティファニーで朝食を』の難易度を図る際は、参考になると思います。
和訳は村上春樹訳を引用します。プロの翻訳者のすごさを感じてください。
Presently one of these became prominent. He was a middle-aged child that had never shed its baby fat, though some gifted tailor had almost succeeded in camouflaging his plump and spankable bottom. There wasn’t a suspicion of bone in his body; his face, a zero filled in with pretty miniature features, had an unused, a virginal quality: it was as if he’d been born, then expanded, his skin remaining unlined as a blown-up balloon, and his mouth, thought ready for squalls and tantrums, a spoiled sweet puckering.
そうこうするうちに一人の人物がいやでも目につくようになってきた。子供がそのまま中年の域に達してしまったみたいな男だ。赤ん坊の頃のぽっちゃりした肉はまだそのままに残っていたが、そのむっくり膨らんだ、折檻を求めているような臀部は、才能のある仕立て屋によっておおむねうまくカモフラージュされていた。どう見ても彼の身体の中に骨らしきものが入っているとは思えなかった。まったく何もないところに、かわいいミニチュアの目鼻をくっつけたみたいな顔で、まっさらの未使用という趣がそこにはあった。生まれ落ちたかたちのまま、ただ膨張したかのようにも見える。風船みたいにぱんぱんに膨らんで、おかげで皮膚にはしわひとつない。口元は今にも悲鳴をあげてかんしゃくを起こしそうだったが、それでも甘やかされた駄々っ子のような、あどけないおちょぼ口を作っていた。
“Can’t you see it’s just that Rusty feels safer in diapers than he would in a skirt? Which is really the choice, only he’s awfully touchy about it. He tried to stab me with a butter knife because I told him to grow up and face the issue, settle down and play house with a nice fatherly truck driver. Meantime, I’ve got him on my hands; which is okay, he’s harmless, he thinks girls are dolls literally.”
「ラスティーはスカートをはいているより、おむつにくるまれていた方がまだ安心できるんだってことがわからないの?スカートの方が実は選択としてはまともなんだけど、あの人はそこを突かれるとびりびり傷つくのよ。私があの人に、成長して現実と向き合いなさい、腰を落ちつけて、お父さんタイプのトラック運転手と家庭ごっこでもしなさいと言ったとき、バターナイフで私を刺そうとしたんだもの。でも今はひとまず、私があの人を引き受けている。まあいいのよ。害のない人だもの。女の子のことを本気でただのお人形と思っているんだから」
ティファニーで朝食を
▼以下は、タイトルの「ティファニー」と「朝食」について、ホリーが語る部分です。
“I knew damn well I’d never be a movie star. It’s too hard; and if you’re intelligent, it’s too embarrassing. My complexes aren’t inferior enough: being a movie star and having big fat ego are supposed to go hand-in-hand; actually, it’s essential not to have any ego at all. I don’t mean I’d mind being rich and famous. That’s very much on my schedule, and someday I’ll try to get around to it; but if it happens, I’d like to have my ego tagging along. I want to still be me when I wake up one fine morning and have breakfast at Tiffany’s.”
「映画スターになんかなれないことは、よくわかっていた。女優はとても大変。賢い人にとっては、恥ずかしくてとてもできない。私のコンプレックスはそこまでひどくない。映画スターであることと、大きく太ったエゴを持つことは、同じだと思われているけれど、実際は全くエゴを持っていないことがとても重要なの。リッチで有名になりたくないわけじゃない。それは私の予定表にもしっかりあるし、いつかはそうしたいと思ってる。でももしそうなったとしても、私は自分のエゴを持っていたい。私は私のままでいたい、ある朝目が覚めて、ティファニーで朝食を食べるときにも」
I don’t want to own anything until I know I’ve found the place where me and things belong together. I’m not quite sure where that is just yet. But I know what it’s like.” She smiled, and let the cat drop to the floor. “It’s like Tiffany’s,” she said. “Not that I give a hoot about jewelry.”
「私は何も持ちたくない、私と物事が一緒になれる場所を見つけたとわかるまで。それがどんな場所なのか、今はまだわからない。でも、それがどんな場所かは知っている」、彼女は微笑んで、猫を床におろした。「それはティファニーみたいな場所」と彼女は言った。「でも私は宝石のことになんか全然興味ないの」
▼mean redとは?
“But that’s not why I’m mad about Tiffany’s. Listen. You know those days when you’ve got the mean reds?” “Same as the blues?” “No,” she said slowly. “No, the blues are because you’re getting fat or maybe it’s been raining too long. You’re sad, that’s all. But the mean reds are horrible. You’re afraid and you sweat like hell, but you don’t know what you’re afraid of. Except something bad is going to happen, only you don’t know what it is. You’ve had that feeling?”
“Quite often. Some people call it angst.”
“All right. Angst. But what do you do about it?”
“Well, a drink helps.”
「私がティファニーに狂ってるのはそういう理由じゃない。聞いて。ほら、たちの悪いレッドのような気持ちになることってあるでしょ?」
「ブルーになるみたいな?」
「違う」と彼女はゆっくりと言った。「ブルーは太ったときとか、雨が長く降っている時とか。悲しくなる、ただそれだけ。でもたちの悪いレッドは恐ろしい。不安で、地獄のように汗が出る、でも何が不安なのか自分でもわからない。何か悪いことが起ころうとしていること以外は、それが何なのかわからない。あなたはそう感じたことはある?」
「何度もある。それをアングスト(不安感)と呼ぶ人もいる」
「なるほど。アングスト。でも(そういうとき)あなたはどうするの?」
「そうだね、酒を飲むといい」
“What I’ve found does the most good is just to get into a taxi and go to Tiffany’s. It calms me down right away, the quietness and the proud look of it; nothing very bad could happen to you there, not with those kind men in their nice suits, and that lovely smell of silver and alligator wallets. If I could find a real-life place that made me feel like Tiffany’s, then I’d buy some furniture and give the cat a name.
「これまで試して最も効果があったのは、タクシーでティファニーに行くこと。そうするとすぐに気持ちが落ち着く。店内の静けさと、誇らしげな見た目。そこではそんなに悪いことは起こらないはず、なぜならナイスなスーツを着た親切な男性達や、美しい銀製品やアリゲーターの財布の素敵な匂いがあるような場所だから。もしティファニーの店内にいるみたいな感じられる場所を、この現実世界で見つけることができたら、私は家具を買い、猫に名前をつけてあげる。」
善きことなど、その他
▼善きこと
“It’s a bore, but the answer is good things only happen to you if you’re good. Good?Honest is more what I mean. Not law-type honest 省略 but unto-thyself-type honest. Be anything but a coward, a pretender, an emotional crook, a whore: I’d rather have cancer than a dishonest heart. Which isn’t being pious. Just practical Cancer may cool you, but the other’s sure to.
「退屈だけど、答えは、『あなたが善きことをしているときにだけ、あなたに善きことが起こる』ってこと。善きこと?というよりは、正直と言った方が正しいかな。法律を守るとかじゃなくて 省略 自分自身に対する正直さのこと。卑怯者、猫かぶり、感情の詐欺師、売春婦じゃなきゃ、なんでもいい。不正直な心を持つくらいなら、癌になった方がまし。それは信心深さとかじゃなくて。実際の癌はあなたを殺すけど、もう一つの方はあなた(の一番大切な部分)を必ず殺す。」
▼乗馬コース
The stables - I believe they have been replaced by television studios - were on West Sixty-sixth street. 省略 we jogged across the traffic of Central Park West and entered a riding path dappled with leaves feuding breezes danced about. 省略 Onward: across the park and out into Fifth Avenue 省略 Past the Duke mansion, the Frick Museum, past the Pierre and the Plaza.
厩舎は -今ではテレビのスタジオに変わっていると思うけど- ウエストサイドの六十六丁目にあった。省略 私たちはセントラル・パーク・ウエスト通りの車たちをゆっくりと横切り、落ち葉でまだらになった乗馬道路に入った。省略 馬はそのまま前に突進し、公園を横切り、五番街に出た。省略 デューク・マンションを過ぎ、フリック美術館を過ぎ、ピエールとプラザを過ぎた。

▼告白
“Please. Are you sure? Tell me the truth. You might have been killed.”
”But I wasn’t. And thank you. For saving my life. You’re wonderful. Unique. I love you.”
“Damn fool.” She kissed me on the cheek. Then there were four of her, and I fainted dead away.
「お願い。大丈夫?正直に言って。あなたは死んでたかもしれないのよ」
「でも死ななかった。ありがとう、僕の命を助けてくれて。君はワンダフル。唯一の人。僕は君が好きだ」
「馬鹿な人」、ホリーは僕の頬にキスをした。すると彼女の顔が四つになり、僕は気を失った。
▼悲しみの病気
“Her sickness is only grief?” He asked, his difficult English lending the question an unintended irony. “She is grieving only?”
「彼女の病気はただの悲しみなのですか?」と彼は尋ねた。彼の下手な英語は、その質問に意図しない皮肉を与えていた。「彼女は悲しんでいるだけですか?」
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